市長が成人式で熱唱!?熊本県の成人式
皆様こんにちは。貴迎館の武下です。
今回は趣向を変えて、他の地域で行われていた変わり種の成人式を紹介いたします。二十歳の門出を祝うと同時に大人としての自覚を促す厳粛な式として日本では浸透していますが、そんなイメージを覆すような取り組みを行っている自治体もあるようです。他の都道府県ではどのようなことが行われているのか、少し覗いてみましょう。
熊本県の北東部に位置する阿蘇市は、雄大な阿蘇山のカルデラを中心に広がる自然豊かなまちです。火山と草原、温泉、牧場といった観光資源を多く有し、年間を通じて多くの観光客が訪れます。一方で過疎化や高齢化といった課題を抱えており、地域の魅力をどう次世代へ継承するかが重要なテーマとなっています。
その中で、阿蘇市が全国的に注目を集める理由の一つが「成人式で市長が歌を披露する」という、きわめてユニークな恒例行事です。「成人式」と言えば厳粛で儀礼的な場という印象が一般的ですが、阿蘇市では笑顔と拍手に包まれた“歌のある成人式”が毎年開催されています。この独特の伝統は、阿蘇の風土と人情を象徴するような温かさをもった文化として定着しています。
この伝統を築き上げたのは、2025年に5期20年の任期を終えられた佐藤義興(さとう よしおき)前市長です。
1949年に阿蘇郡阿蘇町(現・阿蘇市)に生まれ、熊本県立阿蘇高等学校を経て近畿大学を卒業。その後、国会議員秘書や建設大臣秘書官、経済企画庁長官秘書官を務めた後、2005年の市長選で初当選を果たされました。
市長としての任期中は、観光振興や農業支援、災害復旧など幅広い分野でリーダーシップを発揮されましたが、なかでも特筆すべきは「歌う市長」としての一面です。
2007年ごろから成人式で自ら歌を披露するようになり、その温かくユーモラスなパフォーマンスが話題となりました。
地域の若者たちに「堅苦しい挨拶ではなく、心に残るメッセージを届けたい」という想いが、この文化の出発点だったと伝えられています。
阿蘇市の成人式(二十歳の集い)は、例年1月初旬に阿蘇市総合センターなどで開催されます。式の前半は来賓祝辞や新成人代表のスピーチなど、一般的な式典と変わりません。しかし後半になると、会場の空気が一変します。
佐藤市長がマイクを手にし、「それでは新成人の皆さんへエールを送ります」と告げると、伴奏の音が流れ出し、歌が始まります。市長は自ら選んだ楽曲を披露し、会場全体が手拍子や笑顔に包まれる――これが阿蘇市の成人式の名物シーンです。
かつてはAKB48の「ヘビーローテーション」や、福山雅治の「桜坂」、そして近年ではあいみょんの「マリーゴールド」や菅田将暉の「まちがいさがし」など、若者に人気の曲を歌ってきました。
時には歌詞を一部忘れてしまうハプニングもありますが、それすらも笑いと拍手に変わるアットホームな雰囲気が特徴です。
このスタイルは、いまや市民にとって「阿蘇の新年の風物詩」となっており、新成人たちも「市長の歌を生で聴くことを楽しみにしていた」と語るほどです。
阿蘇市民や新成人の反応は、おおむね温かいものです。
多くの参加者が「歌で祝ってもらえるなんて他の市にはない」「ユーモアがあって記憶に残る式典」と語っています。
成人式というと形式ばった印象を持つ人も多い中、市長自らが舞台に立ち、気持ちを込めて歌を贈ることで、会場が一体となる瞬間が生まれるのです。
地元メディアもたびたびこの様子を報じており、「毎年恒例の“歌う市長”の登場に会場が盛り上がった」「今年の選曲が何かが話題になる」といった記事が掲載されてきました。
また、阿蘇市外から成人を迎えた若者が「地元に帰ってきてよかった」「ふるさとを感じた」と語る場面も見られます。
このように、市長の熱唱は単なるパフォーマンスではなく、地域の絆を確かめ合う“心の行事”として機能しているのです。
① 若者へのエールのかたち
形式的な祝辞では伝わりにくい「応援」の気持ちを、音楽を通じて感情豊かに届けることができます。
歌詞の中には人生へのメッセージが込められており、若者が自分の未来に重ね合わせて受け取ることも多いのです。
② 地域アイデンティティの醸成
市長が地元の若者に直接語りかけるという構図は、地域共同体の一体感を強める効果を持ちます。
「自分たちは阿蘇で育ち、この地に祝福されて成人になった」という記憶は、ふるさとへの愛着や帰属意識を育てる土壌になります。
③ 式典の柔らかい雰囲気づくり
成人式は厳粛な場であると同時に、人生の節目を楽しく祝う場でもあります。
歌の演出によって堅苦しさが和らぎ、会場全体が温かく和やかな空気に包まれることで、若者にとって“前向きな出発点”となります。
④ 地方都市からの発信力
全国の自治体が「若者の参加率低下」や「成人式離れ」に悩む中、阿蘇市のようにユーモラスで印象的な式典は、地域の魅力発信にもつながっています。
「歌う市長のまち」という認知は観光PRの一助にもなり、地元に関心を寄せる人々を増やしています。
阿蘇市のように、個性豊かな成人式を行う自治体は他にも存在します。
ここでは、全国のいくつかの興味深い事例を紹介いたします。
北海道・帯広市「バンド演奏で祝う成人式」
帯広市では、市内の高校吹奏楽部OBらによる生演奏が式典の冒頭で行われ、ロックバンド風の演出で新成人を盛り上げています。
「堅苦しい式典を楽しくしたい」という若者の声から始まり、地域ぐるみで企画されるようになったそうです。
沖縄県・那覇市「伝統衣装での入場」
那覇市では、和装に加えて琉球王朝時代の衣装を着用して登場する新成人も多く、伝統文化を尊重したスタイルが特徴です。
音楽や踊りを交えた華やかなセレモニーとなり、地元のアイデンティティを体感する機会として親しまれています。
三重県・志摩市「町長と新成人の対話」
志摩市では、市長や町長がステージに上がり、数名の新成人と直接トークを交わす時間が設けられています。
政治家と若者の距離を近づける試みとして注目され、「式典=一方的に話を聞く場」という従来のイメージを打ち破る試みとなっています。
このように、地域ごとに多様な形式が生まれており、阿蘇市の「歌う市長」もまた、地方創生の一環として他自治体のモデルケースになりつつあります。
阿蘇市の成人式で市長が熱唱するという文化は、単なる奇抜な演出ではなく、「地域と若者をつなぐ心の儀礼」です。佐藤義興前市長が長年にわたり情熱をもって続けたことで、市民にとって欠かせない年中行事となりました。
「成人を祝う」という普遍的なテーマに、地域らしい温かさとユーモアを加えたこの式典は、“ふるさとに見守られて大人になる”という本来の成人式の意味を、現代的な形で体現しています。阿蘇の雄大な自然のように、この歌声もまた、世代を超えて地域の記憶として受け継がれていくことでしょう。
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